長期ブランクで有酸素運動能力はどう落ちる?最大酸素摂取量だけではない身体の変化

ランニング

はじめに

「数週間休んだだけなのに以前より全然走れない」

「ジョグなのに心拍数が異常に高い」

「脚はまだ動く気がするのに、息だけが苦しい」

ランニングや自転車、登山、スポーツをしている人なら、一度はこうした経験があるかもしれません。

数日程度なら大きく変わらないこともありますが、数週間から数ヶ月のブランクになると、多くの人が予想以上の能力低下を感じます。

こうしたときによく言われるのが、


最大酸素摂取量(VO₂max)が落ちた

という表現です。

確かにVO₂maxは重要な指標です。しかし実際の身体では、運動能力はVO₂maxだけで決まっているわけではありません。

私たちが「走れる」「疲れにくい」「長時間動ける」と感じる背景には、

  • 血液量
  • 心臓機能
  • 筋肉の酸素利用能力
  • ミトコンドリア
  • 脂肪代謝能力
  • 神経系適応
  • 動作効率

など、多くの要素が複雑に関わっています。

そしてブランクでは、それらが同時に落ちるのではなく、時間差で少しずつ低下していきます。

そのため実際には、


VO₂maxが下がったから走れない

という単純な話ではなく、


身体の複数のシステムが連鎖的に変化した結果として走れなくなっている

と考えた方が正確です。

この記事では、長期ブランクによって身体の中で何が起きるのかを、時系列的に解説していきます。

読み終える頃には、「なぜブランク後にあれほど苦しく感じるのか」が整理できるはずです。

運動能力は1つではない

まず重要なのはここです。

私たちはつい、


体力=VO₂max

のように考えがちですが、実際には違います。

運動能力はざっくり言えば次のような流れで成立しています。

トレーニング継続
↓
血液量増加
↓
心臓適応
↓
酸素供給能力向上
↓
筋肉適応
↓
エネルギー利用効率改善
↓
動作効率改善
↓
パフォーマンス向上

逆にブランクではこれが逆回転します。

運動停止
↓
血液量低下
↓
心拍出量低下
↓
酸素供給能力低下
↓
筋適応低下
↓
代謝能力低下
↓
動作効率低下
↓
運動能力低下

第1段階:2〜7日で血液が減り始める

ブランクで最初に起こるのは筋力低下ではありません。

実は最初に変わるのは血液です。

持久系トレーニングを継続すると、

  • 血漿量増加
  • 水分保持能力向上
  • アルブミン増加

などが起きています。

ところが運動を止めると数日で低下し始めます。

研究では血漿量が約5〜12%低下することが報告されています。

この影響で、

  • 心臓へ戻る血液量減少
  • 一回拍出量低下
  • 同じ運動でも心拍数上昇

が起こります。

この時期によくあるのが、


楽なジョグなのに心拍だけ高い

という現象です。

実際に僕も今回以外にも何度か復帰したり走らなくなったりを繰り返していて、そのブランク明けの度に最初に感じるのが

「なんかキツさの割に心拍だけやたら高いな」

という現象です。

そりゃブランク明けなので、それなりにキツさは感じながら走るわけなのですが、体感する強度よりも心拍数が高いと感じるわけです。

「このくらいの体感でこんな心拍あがるんだったっけ?」

という自分の過去の記憶と今の状態にギャップを感じるのです。

その一因として、

  • 心臓へ戻る血液量減少
  • 一回拍出量低下
  • 同じ運動でも心拍数上昇

という構造になっているということです。

脚もそうですが、まず循環系が崩れている状態です。

第2段階:1〜3週間で心臓の能力が低下する

血液量が減ると、心臓も影響を受けます。

心臓は1回の拍動で送り出す血液量(一回拍出量)が減ります。

例えば極端なイメージですが、

以前:

70mL × 180拍

ブランク後:

60mL × 180拍

このような変化が起きると、全身へ運べる酸素量は減少します。

研究では2週間程度のトレーニング離脱でも、

  • 最大酸素摂取量低下
  • 一回拍出量低下

が確認されています。

ここで起こる体感は、


少し走るだけで息が上がる

です。

第3段階:2〜6週間で筋肉のエネルギー工場が縮小する

ここから筋肉側の問題が出始めます。

有酸素運動では筋肉の中にあるミトコンドリアが増えます。

ミトコンドリアはエネルギー工場のようなものです。

ミトコンドリア機能が高まると、

  • 脂肪利用能力の向上
  • ATP産生能力の向上
  • 長時間運動での疲労耐性向上

につながります。

しかしブランクが発生すると、酸化酵素活性やミトコンドリア機能が徐々に低下します。

その結果、同じ運動でもエネルギーを作る効率が悪くなります。

ここで感じやすいのが、


息だけじゃなく脚も重い

という状態です。

第4段階:乳酸閾値(LT)と脂肪利用能力も低下する

多くの人が勘違いしやすいのですが、実際の競技ではVO₂maxよりも乳酸閾値(LT)の方が重要な場合が多くあります。

VO₂maxは「最大能力」に近い指標ですが、LTは「どのくらいの強度を長く維持できるか」に関わる指標です。

ブランクでは、

  • 血漿量の低下
  • 毛細血管適応の低下
  • ミトコンドリア機能の低下
  • 脂肪利用能力の低下
  • 糖輸送・代謝機能の低下
  • 乳酸輸送能力の低下

これらの変化が積み重なり、結果としてLT(乳酸閾値)が低下します。VO2maxにおいても同様のことがいえると思います。

例えば、

以前:

心拍140 → 5:30/km

ブランク後:

心拍140 → 6:15/km

このような変化が起きることがあります。

ここで感じるのは、


前は余裕だったペースが維持できない

という状態です。

第5段階:数ヶ月でフォームや動作効率も崩れる

最後は神経系適応です。

ランニングや持久系スポーツでは、心肺機能だけでなく「動き慣れ」も重要です。

ブランクが長くなると、

  • 接地タイミング
  • リズム感
  • 筋動員パターン
  • ペース感覚
  • フォーム効率

が少しずつ崩れます。

VO₂maxがある程度残っていても、無駄な上下動や接地時間の増加、ブレーキ動作の増加が起きれば、走る効率は悪くなります。

ここでよくあるのが、


脚は動くけど走り方がおかしい。思い通りに体が動かない。

という感覚です。

ブランク後の体感は実際にはこう進むことが多い

多くの人は、次のような順番で変化を感じます。

  1. 心拍だけ高い
  2. 息が上がる
  3. ペース維持が難しくなる
  4. 長時間走れなくなる
  5. 動きがぎこちなくなる

つまり、


体力が落ちた

という一言で片づけるよりも、


複数の能力が時間差で崩れている

と考えた方が正確です。

まとめ

長期ブランクで起こることをまとめると、次のようになります。

  • 数日:血漿量低下
  • 1〜3週間:心拍出量低下
  • 2〜6週間:ミトコンドリア機能低下
  • 数週間:LT・脂肪利用能力低下
  • 数ヶ月:動作効率低下

運動能力低下は、VO₂maxだけでは説明できません。

そして逆に言えば、戻す時もVO₂maxだけを狙う必要はありません。

低強度運動を積み上げるだけでも、

  • 血液量の回復
  • ミトコンドリア機能の回復
  • 脂肪利用能力の改善
  • 動作効率の改善

はかなり期待できます。

ブランク後は焦って高強度を入れるよりも、「身体全体を再構築する期間」と考える方が、長期的には近道なのではないかなと思います。

今回は、ブランクによる有酸素運動能力の低下を、それらを形成する要素ごとに時系列っぽく挙げてみました。ブランクによる走力低下は再度時間をかけてトレーニングによって取り戻していく必要があります。

有酸素運動能力を形成する要素にはどのようなものがあって、それらがどのくらいの期間のブランクで低下し、なおかつそれらの要素はどんなトレーニングで取り戻せるかを知っておくと、必要なトレーニングを必要な分だけリスクを避けながら積み上げることが出来るのではないかなと思います。

参考文献

  • Neufer PD et al. The effect of detraining and reduced training on the physiological adaptations to aerobic exercise training. Med Sci Sports Exerc. 1987.
  • Mujika I, Padilla S. Detraining: loss of training-induced physiological and performance adaptations. Sports Medicine. 2000.
  • Coyle EF et al. Time course of loss of adaptations after stopping prolonged intense endurance training. Journal of Applied Physiology. 1984.
  • Mujika I, Padilla S. Cardiorespiratory and metabolic characteristics of detraining in humans. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2001.
  • Zheng Y et al. Effects of short-term and long-term detraining on sports performance and physiological adaptations. Sports Medicine. 2022.

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