はじめに
スポーツドリンクやエネルギージェルの原材料を見ると、「マルトデキストリン」「ブドウ糖」「果糖」といった名前が並んでいます。
どれも糖質であることは分かりますが、「何が違うの?」「結局どれを選べばいいの?」と疑問に思ったことはないでしょうか。
実は、それぞれは同じ糖質でも役割が少しずつ異なります。
普段の食事に向いているもの、運動中の補給に向いているもの、複数を組み合わせることで力を発揮するものなど、それぞれに特徴があります。
今回は、ランナーが知っておきたい3種類の糖質について、消化・吸収の仕組みからレースでの活用方法まで、研究データを交えながら分かりやすく解説します。
糖質にはいくつかの種類がある
糖質と一言でいっても、その構造には違いがあります。
| 分類 | 代表例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 単糖類 | ブドウ糖・果糖 | そのまま吸収できる最小単位 |
| 二糖類 | ショ糖・乳糖・麦芽糖 | 2つの単糖が結合している |
| 多糖類 | デンプン・マルトデキストリン | 多数のブドウ糖がつながった構造 |
人が最終的にエネルギーとして利用するのは、主にブドウ糖です。
そのため、多糖類や二糖類も、最終的にはブドウ糖などへ分解されてから吸収されます。
お米は身体の中でどう変化するのか
ランナーにとって最も身近な糖質源がお米です。
では、お米を食べると身体の中ではどのような流れでエネルギーになるのでしょうか。
| 流れ | 身体で起きていること |
|---|---|
| ① お米を食べる | 主成分はデンプン(多糖類) |
| ② 消化 | 唾液や膵液のアミラーゼで細かく分解される |
| ③ 小腸 | 最終的にブドウ糖へ分解される |
| ④ 吸収 | SGLT1を通って血液へ入る |
| ⑤ 利用 | 筋肉でエネルギーとして使われたり、筋グリコーゲンとして蓄えられたりする |
つまり、お米そのものが筋肉へ運ばれるわけではありません。
デンプンが消化され、最終的にブドウ糖になってから身体へ吸収されます。
この流れを知っておくと、これまで解説してきた筋グリコーゲンやSGLT1との関係も理解しやすくなります。
マルトデキストリンとは何か
マルトデキストリンは、デンプンを途中まで分解して作られる糖質です。
原料はトウモロコシ、ジャガイモ、米などさまざまですが、構造としては「ブドウ糖が短くつながった状態」と考えると分かりやすいでしょう。
デンプンよりも分子が短いため消化しやすく、それでいてブドウ糖だけを大量に溶かした場合よりも浸透圧を低く保ちやすいという特徴があります。
この性質が、スポーツドリンクやエネルギージェルで広く利用されている理由です。
浸透圧とは何か
浸透圧という言葉は少し難しく感じるかもしれません。
ここでは「液体の濃さ」と考えるとイメージしやすいでしょう。
同じ60gの糖質でも、ブドウ糖だけを溶かした飲み物は、液体中に存在する粒子の数が多くなります。
一方、マルトデキストリンは複数のブドウ糖がまとまっているため、同じ糖質量でも粒子数が少なくなります。
その結果、浸透圧が比較的低く保たれます。
浸透圧が極端に高い飲み物は胃の中に長く留まりやすく、胃もたれや不快感の原因になることがあります。
そのため、長時間の運動中に大量の糖質を摂取したい場合には、マルトデキストリンのような糖質が利用されることが多いのです。
研究① Currell & Jeukendrup|糖質の種類でパフォーマンスは変わるのか
何をしたのか
CurrellとJeukendrupは、自転車競技者を対象に、運動中の糖質補給がパフォーマンスへ与える影響を調べました。
ブドウ糖だけを摂取した場合と、ブドウ糖と果糖を組み合わせて摂取した場合を比較し、タイムトライアルの成績や糖質利用量を測定しています。
何が分かったのか
ブドウ糖と果糖を組み合わせた方が、ブドウ糖単独よりも多くの糖質を利用でき、タイムトライアルの成績も向上しました。
これは、ブドウ糖と果糖が異なる輸送体を利用して吸収されるため、一度に取り込める糖質量が増えたことが理由と考えられています。
記事との関連
現在販売されている多くのエネルギージェルに、マルトデキストリンと果糖が組み合わせて使われているのは、この研究を含むスポーツ栄養学の知見が背景にあります。
つまり、「複数の糖質を組み合わせること」には、科学的な根拠があるのです。
ブドウ糖とは何か
ブドウ糖(グルコース)は、人間にとって最も基本的なエネルギー源です。
お米やパン、麺類などに含まれるデンプンも、最終的にはブドウ糖へ分解されます。
血液中を流れる血糖も、主にこのブドウ糖です。
筋肉や脳は、このブドウ糖を利用して活動しています。
そのため、運動中に不足するとパフォーマンスが低下しやすくなります。
| ブドウ糖の特徴 | 内容 |
|---|---|
| 吸収経路 | SGLT1 |
| 利用場所 | 筋肉・脳・全身 |
| メリット | 素早くエネルギーとして利用できる |
| 注意点 | SGLT1には処理能力の限界がある |
以前の記事で紹介したように、SGLT1という輸送体には1時間あたり約60g前後という処理能力の目安があります。
そのため、ブドウ糖だけを大量に摂取しても、吸収が追いつかず、腸内に残った糖質が胃腸トラブルの原因になることがあります。
果糖とは何か
果糖(フルクトース)は、果物やはちみつなどに多く含まれる糖質です。
ブドウ糖と同じ単糖類ですが、吸収の仕組みは異なります。
果糖はSGLT1ではなく、「GLUT5」という別の輸送体を利用して吸収されます。
| 果糖の特徴 | 内容 |
|---|---|
| 吸収経路 | GLUT5 |
| 主な代謝 | 肝臓 |
| メリット | ブドウ糖とは別ルートで吸収できる |
| 注意点 | 大量摂取では胃腸トラブルを起こす人もいる |
果糖は吸収されたあと、まず肝臓で代謝されます。
そのため、「ブドウ糖より遅い」「エネルギーになりにくい」と説明されることがあります。
しかし、スポーツ栄養学では少し見方が異なります。
重要なのは、ブドウ糖とは別の入口(GLUT5)を使えるという点です。
この特徴によって、運動中により多くの糖質を身体へ送り込める可能性があります。
なぜジェルには複数の糖質が入っているのか
市販されているエネルギージェルを見ると、マルトデキストリンだけではなく、果糖やブドウ糖も一緒に配合されている製品が多くあります。
その理由は、「それぞれ役割が違うから」です。
| 糖質 | 主な役割 |
|---|---|
| マルトデキストリン | 大量の糖質を補給しやすい |
| ブドウ糖 | すぐ利用できるエネルギー源 |
| 果糖 | GLUT5を利用して吸収量を増やす |
つまり、それぞれを組み合わせることで、胃への負担を抑えながら効率よく糖質を補給できるよう設計されているのです。
研究② Jeukendrupら|60gから90gへ変わった理由
何をしたのか
Jeukendrupらは、持久系競技者を対象に、運動中の糖質摂取量を変えながら糖質利用量やパフォーマンスを比較しました。
ブドウ糖単独の場合と、ブドウ糖と果糖を組み合わせた場合を比較しています。
何が分かったのか
ブドウ糖だけでは1時間あたり約60g付近で利用量が頭打ちになる一方、果糖を組み合わせることで90g前後まで利用量を増やせることが示されました。
さらに近年では、糖質の比率や製品設計を工夫することで、100〜120g/時間を目標とするトップアスリートも増えています。
ただし、このような大量補給は十分なガットトレーニングを行った競技者を前提としており、すべてのランナーに当てはまるわけではありません。
記事との関連
「糖質は60gまでしか吸収できない」という情報は、現在では正確とは言えません。
ブドウ糖単独では一つの目安になりますが、複数の糖質を組み合わせることで、より多くの糖質を利用できることが現在のスポーツ栄養学では分かっています。
研究③ Burkeら|現在の補給戦略
何をしたのか
Burkeらは、持久系競技者における糖質補給について、多数の研究をまとめたレビューを発表しました。
糖質摂取量、補給タイミング、糖質の種類などを総合的に評価しています。
何が分かったのか
競技時間が長くなるほど、糖質補給の重要性は高くなります。
また、ブドウ糖だけではなく、複数の糖質を組み合わせた補給が現在の主流になっています。
一方で、60分程度までの運動では、普段の食事から十分な糖質を摂取していれば、運動中の補給が必須とは限りません。
記事との関連
糖質は「多ければ多いほど良い」というものではありません。
運動時間や強度、競技レベルに合わせて、必要な量と種類を選ぶことが重要です。
結局、どの糖質を選べばいいのか
ここまで見てきたように、マルトデキストリン・ブドウ糖・果糖にはそれぞれ役割があります。
そのため、「一番優れている糖質」は存在しません。
重要なのは、運動時間や目的に応じて使い分けることです。
| 糖質 | 普段の食事 | 60分ラン | 90分以上 | フル・ウルトラ |
|---|---|---|---|---|
| お米(デンプン) | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
| パン・麺類 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
| マルトデキストリン | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| ブドウ糖 | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
| 果糖 | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
| エネルギージェル | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| スポーツドリンク | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
普段の食事では、お米やパンなどから十分な糖質を摂取することが基本です。
一方で、長時間走やレースでは、携帯しやすく吸収効率も考えられたジェルやスポーツドリンクが大きな力を発揮します。
市販ジェルを見るときのポイント
最近のエネルギージェルには、単一の糖質だけでなく、複数の糖質を組み合わせた製品が増えています。
購入するときは、次のポイントを確認してみましょう。
| 確認したい項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 糖質の種類 | マルトデキストリン・果糖・ブドウ糖など複数配合か |
| 糖質量 | 1個あたり何g補給できるか |
| ナトリウム | 発汗量が多い人は重要 |
| カフェイン | 終盤の集中力維持に役立つことがある |
| 飲みやすさ | 自分の胃腸に合うかどうか |
どれほど評価の高いジェルでも、自分の身体に合わなければレース本番では十分な力を発揮できません。
本番前のロング走やペース走で実際に試し、自分に合った補給方法を見つけておくことが大切です。
僕の場合を考えてみる
現在の僕は、体重88kg前後で、60〜90分のZone2ランニングを中心に取り組んでいます。
減量も同時に進めているため、以前は糖質を控えめにしていました。
しかし、糖質摂取量を見直し、お米を中心に食事を改善してからは、脚の重さや回復の感覚に変化がありました。
その経験から、今は「普段はお米でしっかり糖質を摂ること」を最優先に考えています。
一方で、将来的にウルトラマラソンへ挑戦する際には、レース中の補給が非常に重要になります。
そのため、その段階ではマルトデキストリンや果糖を組み合わせたジェルを活用し、ガットトレーニングも取り入れていく予定です。
普段の食事とレース中の補給は対立するものではなく、それぞれ役割が違うと考えています。
まとめ
マルトデキストリン・ブドウ糖・果糖は、すべて糖質ですが、それぞれ特徴が異なります。
ブドウ糖は身体にとって基本となるエネルギー源であり、果糖は別の吸収経路を利用できます。
マルトデキストリンは、浸透圧が比較的低く、高濃度の糖質を補給しやすいため、多くのスポーツドリンクやエネルギージェルに採用されています。
現在のスポーツ栄養学では、「どれか一つを選ぶ」のではなく、それぞれの特徴を活かして組み合わせることが主流です。
そして、普段の食事ではお米を中心に十分な糖質を摂り、レースではジェルやスポーツドリンクを活用するという使い分けが、多くのランナーにとって現実的な方法と言えるでしょう。
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参考文献
- Currell K, Jeukendrup AE. Superior endurance performance with ingestion of multiple transportable carbohydrates.
Aerobic run training improves brachial artery flow-mediated dilation - PubMedThe purpose of this study was to assess the relationship between aerobic exercise training and brachial artery flow-medi... - Jeukendrup AE. Carbohydrate intake during exercise and performance.
A low glycemic index meal before exercise improves endurance running capacity in men - PubMedThis study investigated the effects of ingesting a low (LGI) or high (HGI) glycemic index carbohydrate (CHO) meal 3 h pr... - Burke LM, Hawley JA, Wong SHS, Jeukendrup AE. Carbohydrates for training and competition.
Carbohydrates and Endurance Exercise: A Narrative Review of a Food First Approach - PMCCarbohydrate (CHO) supplements such as bars, gels, drinks and powders have become ubiquitous as effective evidence-based... - Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance.
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