はじめに
ランナーの食事について語られるとき、よく話題になるのが糖質です。
近年は糖質制限や低糖質ダイエットの影響もあり、「糖質はできるだけ控えた方がよい」というイメージを持つ人も少なくありません。
実際、減量を目的としてランニングを始める人の中には、お米やパンを意識的に減らしている人も多いでしょう。
しかし一方で、毎日走るようになると脚が重い、疲れが抜けない、走り始めるまで身体が動かないといった悩みが出てくることがあります。
もちろん原因は疲労や睡眠不足だけではありません。
実は単純に糖質が足りていない可能性もあります。
今回は一般成人とランナーの糖質必要量を比較しながら、実際にどのくらいの糖質が必要なのかを計算してみます。
糖質はなぜ必要なのか
糖質は単なる「太る原因」ではありません。
人間にとって非常に重要なエネルギー源です。
摂取した糖質はブドウ糖として利用され、余った分は筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます。
ランナーにとって重要なのは、この筋グリコーゲンです。
筋グリコーゲンは走るための燃料タンクのような存在で、運動中に消費されます。
また肝グリコーゲンは血糖値を維持し、脳へエネルギーを供給する役割があります。
そのため糖質が不足すると、単純に空腹になるだけではありません。
- 脚が重い
- ペースが上がらない
- 集中力が続かない
- 疲労感が強い
- 運動継続時間が短くなる
といった症状につながることがあります。
脂肪がたくさんあるのになぜ糖質が必要なのか
ここで疑問に思う人もいるでしょう。
「体脂肪がたくさんあるなら、それを燃やせばいいのでは?」
実際に体脂肪として蓄えられているエネルギー量は非常に膨大です。
体脂肪1kgは約7,200kcalとも7,700kcalとも
言われています。
仮に体脂肪が20kgあれば、140,000kcal以上のエネルギーを持っている計算になります。
それにもかかわらず人間は糖質不足で失速します。
なぜなら脂肪だけでは高い出力を発揮できないからです。
ランニング中のエネルギー供給は脂質と糖質の共同作業です。
脂質代謝が中心となる低強度運動でも、必ず一定量の糖質を消費しています。
よく「脂肪は糖の炎の中で燃える」と表現されますが、脂肪を効率良く利用するためにも糖質は必要なのです。
一般成人の糖質必要量
厚生労働省の日本人の食事摂取基準では、総エネルギー摂取量の50〜65%程度を炭水化物から摂取することが推奨されています。
例えば1日2,000kcalを摂取する人の場合を考えてみます。
糖質は1gあたり4kcalです。
仮に総摂取カロリーの55%を糖質から摂取するとすると、
2,000 × 0.55 = 1,100kcal
1,100 ÷ 4 = 275g
となります。
つまり一般的なデスクワーカーであれば、糖質250〜300g程度がひとつの目安になります。
これは健康的な生活を送るための量です。
しかし毎日ランニングをする人は話が変わってきます。
ランナーの糖質必要量
スポーツ栄養学では、糖質必要量を体重あたりで考えることが一般的です。
| 運動量 | 推奨糖質量 |
|---|---|
| 軽い運動 | 3〜5g/kg/日 |
| 1時間程度の持久運動 | 5〜7g/kg/日 |
| 高ボリュームの持久トレーニング | 6〜10g/kg/日 |
| マラソン直前や高負荷期 | 8〜12g/kg/日 |
例えば体重70kgのランナーなら、1時間程度のトレーニングでも350〜490g程度の糖質が推奨されます。
一般成人の250〜300gと比較するとかなり多く見えるかもしれません。
しかしこれは走って消費した筋グリコーゲンを回復させるために必要な量です。
ランナーは思っている以上に糖質を消費しているのです。
実際にスポーツ栄養学のレビューでは、筋グリコーゲン量が十分な状態は持久系パフォーマンス向上と関連し、逆にグリコーゲン不足は運動継続能力の低下につながることが報告されています。
つまりランナーにとって糖質は単なるエネルギー源ではなく、トレーニングそのものを支える重要な燃料と言えます。
実際にランニングでどれくらい糖質を使うのか
では実際にランニング中にどれくらい糖質を消費しているのでしょうか。
ランニングの消費カロリーは大雑把に「体重×距離」で計算できます。
体重88kgの場合を例にしてみます。
時速6.5kmで60分走った場合
60分で約6.5km走ることになります。
88kg × 6.5km = 約572kcal
低強度のZone2付近では脂質利用率が高くなりますが、それでも糖質は利用されています。
仮に脂質60%、糖質40%とすると、
572 × 0.4 = 約229kcal
糖質量に換算すると約57gです。
時速8kmで90分走った場合
90分で約12km走ることになります。
88kg × 12km = 約1,056kcal
この強度になると糖質利用率はさらに高くなります。
仮に糖質50%とすると、
1,056 × 0.5 = 約528kcal
糖質量に換算すると約132gになります。
これは茶碗約2杯分以上の糖質です。
しかもこれはトレーニング中に消費した分だけです。
脳や日常生活で利用する糖質は別に必要になります。
Zone2でも糖質は使われている
低強度ランニングやFATmaxについて学ぶと、脂肪燃焼ばかりに注目してしまうことがあります。
確かにZone2では脂質利用率が高まります。
しかし脂質100%で走っているわけではありません。
実際には脂質と糖質を同時に利用しています。
強度が上がるほど糖質の割合が増え、強度が下がるほど脂質の割合が増えるだけです。
そのため毎日低強度で走っていても糖質消費は積み重なります。
「低強度だから糖質は不要」というわけではないのです。
むしろトレーニング頻度が高い人ほど、回復のための糖質補給が重要になります。
研究では、低グリコーゲン状態で運動を行うと、主観的運動強度(きつさ)が増加し、同じ運動強度でも疲労感が強くなることが報告されています。
「今日は脚が重い」「なんとなく走りたくない」と感じる日の中には、単純な疲労だけではなくエネルギー不足が関係している場合もあります。
糖質量をお米で換算してみる
数字だけでは分かりにくいので、お米で考えてみます。
| お米 | 糖質量 |
|---|---|
| 茶碗1杯(150g) | 約55g |
| 1合(炊飯後約330g) | 約120g |
| 2合 | 約240g |
| 3合 | 約360g |
一般成人の目安である250〜300gの糖質量は、お米だけで考えると約2合前後に相当します。
そして体重88kgで定期的にランニングを行う場合、推奨量は400g以上になることもあります。
つまりお米だけで考えるなら2〜3合相当です。
もちろん実際にはパンや麺類、果物、野菜などからも糖質を摂取しています。
それでもランナーの必要量は想像以上に多いことが分かります。
減量中ランナーが陥りやすい落とし穴
減量中は摂取カロリーを減らす必要があります。
そのため真っ先にお米を減らす人も少なくありません。
実際に体重は落ちるかもしれません。
しかし糖質を減らしすぎると、
- 脚が重い
- 疲労感が抜けない
- 走り始めがつらい
- ペースが上がらない
- トレーニング継続が難しい
といった状態になることがあります。
近年は「アンダーフューエリング(燃料不足)」という概念も注目されており、十分なエネルギーを摂取していない持久系アスリートでは、疲労感の増加や回復遅延、パフォーマンス低下が起こりやすいことが指摘されています。
トレーニング不足ではなく、単純に食事が足りていないというケースも珍しくありません。
減量そのものは成功していても、トレーニングの質が落ちてしまえば本末転倒です。
特に持久系スポーツでは、体重を落とすことと燃料を確保することのバランスが重要になります。
僕の場合を計算してみる
僕の場合は体重88kg前後。
週4〜6回程度、60〜90分の低強度ランニングを行っています。
スポーツ栄養学の基準に当てはめると、1日あたり440〜616g程度の糖質量が目安になります。
もちろん競技レベルや目的によって必要量は変わりますが、少なくとも一般成人より多く必要なのは間違いありません。
一方、現在の食生活を振り返ると、
- 朝:食べないことが多い
- 昼:軽め
- 夜:お米1合程度
という日も珍しくありません。
概算すると糖質摂取量は200g前後の日もあると思われます。
もしこの推定が正しいなら、ランナーとして必要な量には届いていない可能性があります。
最近感じていた脚の重さや走り始めの倦怠感も、単なる疲労だけでなく糖質不足が関係しているのかもしれません。
まとめ
ランナーは思っている以上に糖質を消費しています。
低強度ランニングであっても糖質利用はゼロにはなりません。
特に毎日60〜90分走る人は、一般成人より多くの糖質を必要とする可能性があります。
体重を落とすことも大切ですが、走るための燃料まで削ってしまうとパフォーマンス低下につながります。
脚が重い、疲れが抜けない、走る気が出ない。
そんなときは疲労だけでなく、糖質不足という視点から食事を見直してみる価値があるかもしれません。
参考文献
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Carbohydrate Availability and Physical Performance: Physiological Overview and Practical Recommendations - PMCStrong evidence during the last few decades has highlighted the importance of nutrition for sport performance, the role ...







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