ランニングを続けていると、
「今日は脚が重いな」
「なんとなく身体がだるい」
「筋肉痛はないのに走れない」
そんな経験をすることがあります。
僕自身も、2時間の低強度ランニングを行った翌日に1時間の低強度ランニングを実施し、その次の日に走ろうとしたところ、明らかに疲労感が強く、予定していた時間をこなせず30分で切り上げたことがありました。
最初は単純に筋疲労だと思いました。
しかし調べてみると、ランニングによる疲労は筋肉だけでは説明できないことが分かってきました。
実は「疲れた」「脚が重い」という感覚の裏には、筋肉・エネルギー・循環器・神経系など、さまざまな要因が存在します。
本記事ではランナーが知っておきたい疲労の種類について、生理学的な観点から挙げていきます。
疲労は「症状」であって原因ではない
まず知っておきたいのは、「疲労」という言葉は原因ではなく症状の総称であるということです。
例えば、以下のような状態はすべて「疲労」と表現されます。
- 脚が重い
- 身体がだるい
- 心拍数が高い
- ペースが上がらない
- やる気が出ない
しかし、それぞれ原因は異なります。
発熱の原因が風邪やインフルエンザなどさまざまであるように、疲労にも複数の原因が存在します。
適切な回復を行うためには、まず疲労の正体を知る必要があります。
筋疲労|最もイメージしやすい疲労
多くの人が「疲労」と聞いて真っ先に思い浮かべるのが筋疲労でしょう。
筋疲労とは、筋肉そのものに負担や損傷が蓄積した状態です。
主な原因
- 筋繊維の微細損傷
- 炎症反応
- 結合組織への負担
- 筋膜や腱へのストレス
特に下り坂の多いランニングや高強度トレーニングでは、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する「伸張性収縮」が増え、筋損傷が大きくなります。
主な症状
- 筋肉痛
- 張り感
- 押すと痛い
- 階段の下りがつらい
- 特定の筋肉が重い
筋疲労の場合は、どこが疲れているのか比較的明確です。
グリコーゲン枯渇による疲労
筋肉が壊れていないのに脚が重い。
そんなときに考えたいのがグリコーゲン不足です。
グリコーゲンとは、筋肉や肝臓に蓄えられている糖質の貯蔵形態です。
ランニング中は低強度であっても脂肪だけで走っているわけではなく、必ず糖質も消費しています。
長時間走で起こること
例えば、以下のような運動では筋グリコーゲンが大きく減少します。
- 90分走
- 120分走
- フルマラソン
筋グリコーゲンが減少すると、以下のような症状が現れます。
- 力が出ない
- ペースが上がらない
- 身体が重い
- 集中力が落ちる
特徴的なのは、筋肉痛がなくても脚が重く感じることです。
呼吸はキツくないのに走りが重い、呼吸がキツくなるようなペースまで上げられないなどもあります。
「筋肉は元気なのに動けない」という状態は、グリコーゲン不足によって説明できる場合があります。
補給で回復する疲労と回復しない疲労
長時間のランニングやウルトラマラソンでは、補給を行った後に急に元気になることがあります。
そのため、「栄養が足りなかったから疲れていた」と考えがちですが、実際には補給によって改善しやすい疲労と、そうでない疲労があります。
まず知っておきたいのは、レース中に不足しやすい栄養素と、数時間程度では不足しにくい栄養素は分けて考える必要があるということです。
レース中の補給で改善しやすい疲労
以下のような疲労は、補給によって比較的短時間で改善することがあります。
- 低血糖
- グリコーゲン不足の初期段階
- 脱水
- ナトリウム不足などの電解質不足
- 中枢性疲労の一部
例えばジェルやスポーツドリンクを摂取した後に身体が軽く感じたり、ペースを維持できるようになったりするのは、糖質や水分、電解質の補給による影響が大きいと考えられます。
また、カフェインを含む補給は脳の疲労感を軽減し、主観的なきつさを下げることが知られています。
補給してもすぐには改善しない疲労
一方で、補給してもすぐには回復しない疲労もあります。
- 筋損傷
- 腱や靭帯へのダメージ
- 強い炎症反応
- 極度のグリコーゲン枯渇
- 睡眠不足
これらは身体の修復そのものに時間が必要であり、その場で補給しただけでは回復できません。
特に筋損傷は、どれだけエネルギーを補給しても数時間で修復されるものではなく、休養や睡眠による回復が必要になります。
ビタミン不足はレース中の急性疲労なのか
ランナーの中には「長時間走るとビタミンを消費するから疲れる」と考える人もいます。
確かにビタミンB群は糖質や脂質からATPを作り出す過程で重要な役割を果たしています。
しかし、ビタミンは糖質のような燃料ではなく、代謝を助ける補酵素として働きます。
そのため、数時間のレース中に急激に不足して動けなくなり、補給したらすぐ復活するというケースはあまり多くありません。
むしろビタミン不足は、日常的な食事不足や偏食、長期間のトレーニング負荷の蓄積によって起こりやすく、慢性的な疲労感や回復遅延として現れることが一般的です。
電解質不足は別物として考えたい
ビタミンと混同されがちですが、ナトリウムやカリウムなどの電解質はレース中に実際に大量に失われます。
特に発汗量の多い夏場やウルトラマラソンでは、電解質不足によって以下のような症状が現れることがあります。
- 脱力感
- 集中力低下
- めまい
- 吐き気
- パフォーマンス低下
このような場合は、適切な電解質補給によって改善することがあります。
長時間レースにおいて「補給したら復活した」という現象の多くは、ビタミンではなく、糖質・水分・電解質・カフェインなどの影響であると考えられています。
循環器系疲労|心拍数が高い日の正体
ランナーが見落としやすい疲労の一つです。
長時間運動を行うと大量の汗をかきます。
汗の元になる水分は主に血液中の血漿から供給されます。
その結果、以下のような変化が起こります。
- 血漿量の減少
- 血液循環効率の低下
- 心拍数上昇
主な症状
- 同じペースなのに心拍数が高い
- 息苦しい
- 身体が重い
- 動悸を感じる
特に暑い季節や長時間走の翌日に起こりやすい疲労です。
筋肉が疲れているわけではないのに、心肺系が追いつかず苦しく感じることがあります。
中枢性疲労|脳がブレーキをかける
長時間運動を続けると、疲れるのは筋肉だけではありません。
脳も疲労します。
これを中枢性疲労と呼びます。
主な原因
- 神経伝達物質の変化
- 精神的ストレス
- 長時間の集中
- 睡眠不足
脳は身体を守るために、「これ以上は危険かもしれない」と判断すると運動出力を制限します。
主な症状
- やる気が出ない
- ペースを上げる気にならない
- 強い眠気
- 集中力低下
筋肉がまだ動ける状態でも発生します。
ウルトラマラソンやジャーニーランでは非常に重要な疲労です。
熱疲労|夏のランナー最大の敵
夏場になると突然ペースが落ちることがあります。
これは単純な走力低下ではなく、熱疲労である場合があります。
体温が上昇すると身体は生命維持を優先し、筋肉への血流を減らして皮膚への血流を増やします。
その結果、以下のような変化が起こります。
- 心拍数上昇
- 発汗量増加
- パフォーマンス低下
主な症状
- ペース低下
- 異常なきつさ
- めまい
- 頭痛
- 吐き気
夏のランニングで感じる疲労の多くは、筋肉ではなく熱ストレスが原因です。
睡眠不足による疲労
睡眠不足は全ての疲労を悪化させます。
睡眠中には、以下のような回復が行われています。
- グリコーゲン回復
- 筋修復
- ホルモン分泌
- 神経系回復
睡眠時間や睡眠の質が低下すると、以下のような問題につながります。
- 回復速度低下
- 心拍数上昇
- 集中力低下
- パフォーマンス低下
特に仕事や家庭の都合で睡眠不足が続いている場合は、トレーニング内容以前に睡眠改善が必要になることもあります。
実際の疲労は複数が重なっている
ここまで種類ごとに説明してきましたが、実際の疲労は単独では起こりません。
例えば私のケースでいうと、以下のような流れでした。
- 2時間走
- 翌日に1時間走
- 翌日は30分で終了
この場合、以下の疲労が同時に存在していた可能性があります。
- 筋疲労
- グリコーゲン減少
- 血漿量低下
- 中枢性疲労
つまり、「疲れたから筋疲労」ではなく、「どの疲労がどの程度あるのか」を考えることが重要になります。
脚が重い=筋疲労ではない
本記事で最も伝えたいポイントです。
脚が重いという感覚は、以下のようなさまざまな原因によって発生します。
- 筋肉のダメージ
- グリコーゲン不足
- 脱水
- 血漿量低下
- 中枢性疲労
- 熱ストレス
そのため、「脚が重いから休む」だけではなく、「なぜ脚が重いのか」を考えることが、より効率的な回復とトレーニングにつながります。
疲労の正体を理解することは、トレーニング計画を立てる上でも重要です。
負荷と回復のバランスを考える際には、筋肉だけでなくエネルギー、循環器、神経系まで含めて考えるようにしてみてください。
まとめ
ランニングによる疲労は一種類ではありません。
脚が重いと感じたとき、多くの人は筋疲労を疑います。
しかし実際には、グリコーゲン不足、血漿量低下、中枢性疲労、熱疲労、睡眠不足など、複数の要因が重なっていることがあります。
特に長時間走の翌日や連日のランニングでは、筋肉そのもののダメージだけでなく、エネルギーや循環器系の回復が追いついていない可能性があります。
「脚が重い」は症状であって、原因ではありません。
だからこそ、自分の身体の状態を観察しながら、疲労の種類に応じた回復を選ぶことが大切です。
参考文献
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