ランニングを再開した直後や暑い日の運動で、同じペースなのに心拍数が高い、以前より息が上がる、脚は動くのに心肺が苦しいと感じることがあります。
僕もレース終盤などで経験があります。ウルトラマラソンの終盤などは特に顕著で、普段のランニングでは低強度に該当するペースで心拍数120bpm程度で走れるのに、こういった終盤などでは150bpmを軽く超えてきたりします。
また、現在はブランク明け直後ということもあって総合的な運動能力の低下もありますが、動き出しから以前の低強度と同じ心拍数では走れず、低強度のゾーンでランニングするためにはかなりペースを落とす必要があります。
その背景には、単なる「体力低下」だけでなく、血漿量の減少が関係している場合があります。
持久系競技では筋肉や肺ばかりが注目されがちですが、酸素を運ぶ血液の状態もパフォーマンスを大きく左右します。
血漿とは何か?
血液は大きく分けると、赤血球、白血球、血小板、血漿で構成されています。
血漿は血液の約55%を占める液体部分です。約90%が水で構成されており、その中に電解質、タンパク質、ホルモン、栄養素、老廃物などが溶け込んでいます。
血漿は単なる水ではなく、体内の物質輸送を担う重要な存在です。
ランニングで酸素はどのように運ばれるのか
私たちが走るためには、筋肉でATPを作る必要があります。
低強度から中強度のランニングでは、有酸素代謝によって主に脂肪や糖質からATPを産生しています。そのためには大量の酸素が必要です。
酸素は、肺で取り込まれ、赤血球に結びつき、血液循環によって筋肉へ届けられます。
赤血球が酸素を運ぶことはよく知られていますが、その赤血球を全身へ届けるためには血液そのものが十分に循環しなければなりません。その循環を支えているのが血漿です。
血漿量が減る原因
発汗
最も身近な原因は発汗です。
運動中は体温上昇を防ぐために汗をかきます。汗として失われる水分は、主に血漿を含む体液から供給されます。
発汗量が水分補給量を上回ると、体内の水分量が減り、血漿量も低下しやすくなります。
暑熱環境
気温や湿度が高い環境では、身体は体温を下げるために発汗量を増やします。
その結果、血漿量の減少も大きくなります。
トレーニング中断
意外に思われるかもしれませんが、数日から数週間のトレーニング中断でも血漿量は減少します。
持久系トレーニングによって獲得した循環器系の適応は比較的早く失われます。
血漿量が減ると拍出量が下がる理由
心臓は血液を作り出しているわけではありません。戻ってきた血液を送り出しています。
血漿量が減ると、循環血液量も減少します。
すると、心臓へ戻ってくる血液量、つまり静脈還流が減少します。
静脈還流が減ると、心室へ充満する血液量も減ります。その結果、心臓が1回の拍動で送り出せる血液量である1回拍出量が低下します。
この仕組みは、フランク・スターリング機構として知られています。
拍出量が下がると酸素供給能力も低下する
筋肉へ届けられる酸素量は、血液がどれだけ送り出されるかに大きく左右されます。
心臓が1分間に送り出す血液量を心拍出量と呼びます。
心拍出量 = 心拍数 × 1回拍出量
つまり、1回拍出量が低下すると、同じ心拍数では筋肉へ届けられる血液量が減ります。
血液量が減れば、赤血球によって運ばれる酸素の供給量も低下します。
なぜ心拍数が上がるのか
身体は筋肉への酸素供給を維持しようとします。
しかし、血漿量の減少によって1回拍出量が低下している場合、その不足分をどこかで補う必要があります。
そこで行われるのが心拍数の増加です。
例えば、ある運動強度で毎分15Lの血液が必要だとします。
| 状態 | 心拍数 | 1回拍出量 | 心拍出量 |
|---|---|---|---|
| 通常時 | 150拍/分 | 100mL | 15L/分 |
| 血漿量低下時 | 176拍/分 | 85mL | 約15L/分 |
このように、1回拍出量が下がると、同じ心拍出量を維持するために心拍数を増やす必要があります。
つまり、同じペースなのに心拍数が高くなる背景には、以下の流れがあります。
- 血漿量が減る
- 心臓へ戻る血液量が減る
- 1回拍出量が下がる
- 筋肉への酸素供給能力が低下する
- 不足分を補うために心拍数が上がる
VO2maxの低下にもつながる
最大酸素摂取量、いわゆるVO2maxは、持久力を代表する指標です。
VO2maxは、心拍出量と筋肉が血液から取り出せる酸素量によって決まります。
酸素摂取量 = 心拍出量 × 動静脈酸素較差
血漿量が減少すると、1回拍出量が低下し、心拍出量も低下しやすくなります。
その結果、筋肉へ届けられる酸素量が減り、VO2maxの低下にもつながります。
ブランク明けに急激に走力が落ちたように感じる原因の一つです。
ランナーが体感する変化
血漿量が減少すると、ランナーは次のような変化を感じやすくなります。
- 安静時心拍数が高くなる
- 運動時心拍数が高くなる
- 同じペースでも息が上がりやすい
- 暑さに弱くなる
- 長時間走の後半で心拍数が上がりやすい
- 回復が遅く感じる
特にブランク明けには、「脚はまだ動くのに心肺だけ苦しい」という感覚が出やすくなります。
これは筋力低下だけでなく、循環器系の適応が先に失われているためです。
持久系トレーニングで血漿量は増加する
一方で、持久系トレーニングを継続すると血漿量は増加します。
血漿量が増えると、心臓へ戻る血液量が増え、1回拍出量も増えやすくなります。
その結果、以下のような適応が起こります。
- 1回拍出量の増加
- 心拍出量の増加
- 安静時心拍数の低下
- 同じペースでの運動時心拍数の低下
- 酸素運搬能力の向上
- 暑熱環境への適応
トレーニング再開後の数週間で「同じ心拍数なのに以前より速く走れる」と感じる場合、この血漿量増加による影響も大きいと考えられます。
まとめ
血漿量は、持久力を支える重要な要素です。
- 血漿は血液の液体成分であり、循環を支えている
- 発汗、脱水、暑熱環境、トレーニング中断で血漿量は減少する
- 血漿量が減ると心臓へ戻る血液量が減る
- その結果、1回拍出量が低下する
- 筋肉への酸素供給能力が低下する
- 身体は不足分を補うために心拍数を増加させる
- 持久系トレーニングを継続すると血漿量は増加し、心拍数は下がりやすくなる
ランニングでは筋肉ばかりに目が向きがちですが、実際には「血液をどれだけ循環させられるか」が持久力を支える土台になっています。
同じ心拍数でより速く走れるようになる過程には、筋力やフォームだけでなく、血漿量の増加による酸素運搬能力の向上も大きく関係しているのです。
参考文献
- Convertino VA. Blood volume: its adaptation to endurance training. Medicine & Science in Sports & Exercise. 1991.
- Coyle EF, González-Alonso J. Cardiovascular drift during prolonged exercise: new perspectives. Exercise and Sport Sciences Reviews. 2001.
- Joyner MJ, Coyle EF. Endurance exercise performance: the physiology of champions. Journal of Physiology. 2008.
- Powers SK, Howley ET. Exercise Physiology: Theory and Application to Fitness and Performance.
- Wilmore JH, Costill DL, Kenney WL. Physiology of Sport and Exercise.


コメント