はじめに
Zone2トレーニングやFATmaxについて調べていると、「脂肪燃焼」という言葉をよく見かけます。
脂肪を効率よくエネルギーとして利用できる。
長時間運動に強くなる。
ダイエットにも効果的。
こうしたメリットから、近年は多くの市民ランナーがZone2トレーニングを取り入れています。
しかしその一方で、ある誤解も見かけます。
それは「Zone2では脂肪を燃やしているのだから糖質はあまり必要ない」という考え方です。
確かにZone2では脂質利用率が高くなります。
しかし実際には脂肪だけで走っているわけではありません。
むしろ糖質不足によって脚が重くなったり、疲労感が強くなったりすることもあります。
今回はZone2と糖質の関係について、研究データを交えながら解説していきます。
Zone2やFATmaxについて詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。
Zone2とは何か
Zone2とは運動強度を分類した際の低〜中強度領域を指します。
会話ができる程度の強度でありながら、有酸素能力を効率よく向上させることで知られています。
心拍数で表すと最大心拍数の60〜75%程度になることが多く、LT1付近またはその少し下に位置します。
僕の場合だと最大心拍数を175〜180bpmと仮定すると、おおよそ110〜130bpm前後がZone2に相当します。
この強度では脂質代謝が活発になり、脂肪をエネルギーとして利用する割合が高くなります。
そのため「脂肪燃焼ゾーン」と呼ばれることもあります。
Zone2では何を燃やしているのか
ここで重要なのは、脂肪燃焼が活発になることと、脂肪だけで動いていることは全く別の話だということです。
人間の身体は運動中に脂質と糖質を同時に利用しています。
| 運動強度 | 脂質利用 | 糖質利用 |
|---|---|---|
| 低強度 | 多い | 少ない |
| Zone2 | 非常に多い | 中程度 |
| テンポ走 | 中程度 | 多い |
| インターバル | 少ない | 非常に多い |
強度が低いほど脂質利用率は上がります。
しかし糖質利用率がゼロになることはありません。
脂肪と糖質はスイッチで切り替わるのではなく、割合が変化しているだけなのです。
「脂肪は糖の炎で燃える」とはどういう意味か
運動生理学では昔から「脂肪は糖の炎で燃える」という言葉があります。
これは脂肪を利用するためにも糖質が必要であることを表しています。
脂肪は分解されてミトコンドリアへ運ばれます。
そして最終的にはクエン酸回路というエネルギー生産システムの中で利用されます。
しかしこの回路をスムーズに回すためには糖質由来の物質も必要です。
つまり糖質が極端に不足すると、脂肪代謝そのものも効率が落ちてしまいます。
脂肪燃焼を高めたいからといって糖質をゼロに近づけるのは、必ずしも合理的とは言えません。
研究① FATmaxでも糖質は使われている
このテーマを語るうえで有名なのが、AchtenとJeukendrupによるFATmax研究です。
研究では持久系アスリートを対象に、運動強度を段階的に変化させながら脂質利用量と糖質利用量を測定しました。
その結果、脂質利用量が最大となるFATmax強度が確認されました。
しかし興味深いことに、そのFATmax強度でも糖質利用はゼロではありませんでした。
脂肪燃焼が最大になる運動強度でも、身体は糖質を同時に利用している。
つまり「脂肪燃焼ゾーン=糖質不要」という考え方は研究結果と一致しません。
研究② 低強度運動でも糖質は継続的に消費される
Burkeらによる持久系競技のレビュー研究でも同様の結果が示されています。
持久系アスリートの糖質利用を分析したところ、低強度運動でも筋グリコーゲンは継続的に消費されていました。
また筋グリコーゲンが不足すると持久力やパフォーマンスが低下することも報告されています。
低強度だから糖質を使わないのではなく、低強度でも糖質は少しずつ減っていく。
毎日60〜90分走るランナーの場合、この積み重ねは決して小さくありません。
研究③ 糖質不足トレーニングは万能ではない
近年では「Train Low(低グリコーゲントレーニング)」という考え方も研究されています。
これは意図的に筋グリコーゲンを減らした状態でトレーニングを行い、脂質代謝能力を高めようとする方法です。
Impeyらの研究では、低グリコーゲン状態でトレーニングを行うことで、ミトコンドリア関連の適応や脂質代謝能力の向上が確認されました。
一見すると糖質を減らした方が良さそうに見えます。
しかし結果はそれほど単純ではありませんでした。
低グリコーゲン状態では高強度トレーニングの質が低下し、十分な運動強度を維持できなくなることも報告されています。
つまり、糖質不足にはメリットだけではなくデメリットも存在します。
特に市民ランナーの場合は競技レベルの特殊なトレーニングを行うわけではありません。
毎日のランニングを継続するためには、まず十分なエネルギーを確保することの方が重要になるケースが多いでしょう。
糖質不足で起きること
糖質不足が続くと、身体にはさまざまな変化が現れます。
もっとも分かりやすいのはパフォーマンスの低下です。
- 脚が重い
- 疲労感が強い
- 走り始めるまで身体が動かない
- 同じペースなのにきつい
- 後半で失速する
- 回復が遅れる
実際に研究では、筋グリコーゲン量が低下すると主観的運動強度が上昇することが確認されています。
つまり同じ時速7kmで走っていても、筋グリコーゲンが十分な状態と不足している状態では感じるきつさが違うのです。
ランナーがよく口にする「今日は脚が重い」という感覚も、その一部は糖質不足が関係している可能性があります。
もちろん全てが糖質不足で説明できるわけではありません。
睡眠不足や精神的ストレス、筋疲労なども影響します。
しかし疲労だと思っていたものが、実はエネルギー不足だったというケースも少なくありません。
僕の場合を計算してみる
僕の場合、現在の体重は88kg前後です。
週4〜6回程度、60〜90分のZone2ランニングを中心に行っています。
スポーツ栄養学の基準で考えると、体重1kgあたり5〜7g程度の糖質が推奨されます。
計算すると、
- 88kg × 5g = 440g
- 88kg × 7g = 616g
となります。
もちろんこれは競技レベルやトレーニング量によって変動します。
しかし少なくとも一般成人より多くの糖質が必要であることは間違いありません。
一方で、僕の普段の食事は
- 朝:食べないことが多い
- 昼:軽め
- 夜:お米1合程度
という日も珍しくありません。
概算すると糖質量は200〜250g程度になる日もあります。
つまりランナーとして推奨される量には届いていない可能性があります。
最近感じていた脚の重さや走り出しの倦怠感も、トレーニング量の増加だけでなく糖質不足が影響していたのかもしれません。
Zone2で痩せたい人はどう食べるべきか
ここで勘違いしたくないのは、「糖質をたくさん食べれば良い」という話ではないことです。
体重を減らしたい人にとっては、カロリー収支も重要になります。
しかし糖質を極端に減らしてしまうと、トレーニングの質そのものが低下する可能性があります。
大切なのは糖質をゼロにすることではなく、運動量に応じて調整することです。
例えば60〜90分のZone2ランニングを継続しているなら、最低限トレーニングで消費した糖質分は補給した方が回復や継続性の面で有利になるでしょう。
痩せることと走れることは対立するものではありません。
むしろ適切に糖質を摂りながら減量した方が、長期的には高い運動量を維持しやすくなります。
まとめ
Zone2は脂肪燃焼能力を高める優れたトレーニングです。
しかし脂肪燃焼と糖質利用は対立するものではありません。
実際には脂肪も糖質も同時に利用されています。
FATmaxでさえ糖質利用はゼロにならないことが研究で確認されています。
また筋グリコーゲンが不足すると、脚の重さや疲労感、パフォーマンス低下につながる可能性があります。
Zone2で痩せたい人ほど、糖質を敵視するのではなく適切に管理することが重要です。
脂肪を燃やすためにも糖質は必要。
この一見矛盾するような事実を理解することが、長く走り続けるための第一歩になるのではないでしょうか。
参考文献
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Achten J, Jeukendrup AE.
Optimizing Fat Oxidation Through Exercise and Diet.
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15702454/
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14673372/
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https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10054587/
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Impey SG, Hearris MA, Hammond KM, Bartlett JD, Louis J, Close GL, Morton JP.
Fuel for the Work Required: A Theoretical Framework for Carbohydrate Periodization and the Glycogen Threshold Hypothesis.
Journal of Physiology, 2018.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6019055/
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Thomas DT, Erdman KA, Burke LM.
Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance.
Medicine & Science in Sports & Exercise.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6566225/







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