はじめに
ランニングをしていると、前日の疲労が翌日まで残ることがあります。
脚が重い。
思ったようにペースが上がらない。
心肺は余裕なのに脚だけが動かない。
そんな経験をしたことがあるランナーも多いのではないでしょうか。
その原因のひとつとして考えられるのが筋グリコーゲンの回復不足です。
筋グリコーゲンは筋肉に蓄えられた糖質であり、ランナーにとっての燃料タンクとも言える存在です。
走れば必ず減少します。
では、減った筋グリコーゲンはどれくらいで元に戻るのでしょうか。
今回は筋グリコーゲンの回復時間と、回復速度を左右する要因について解説します。
筋グリコーゲンのおさらい
筋グリコーゲンとは筋肉内に蓄えられた糖質です。
ランニング中は脂質と糖質の両方を利用していますが、運動強度が高くなるほど筋グリコーゲンへの依存度は高くなります。
詳しくは前回の記事で解説しています。
関連記事:
筋グリコーゲンとは何か|糖質がランナーの燃料になる仕組み
重要なのは、筋グリコーゲンは無限ではないということです。
走れば必ず減少し、食事によって補充しなければなりません。
筋グリコーゲンは何時間で回復するのか
結論から言うと、完全回復には一般的に24〜48時間程度かかると考えられています。
ただし、これは十分な糖質を摂取した場合の話です。
糖質摂取量が不足している場合はさらに長くなる可能性があります。
また、どれだけ減ったかによっても回復時間は変わります。
| 運動内容 | 回復目安 |
|---|---|
| 軽いジョギング | 数時間〜24時間 |
| 60〜90分のランニング | 24時間前後 |
| ロング走 | 24〜48時間 |
| マラソンレース | 48時間以上 |
つまり、今日走った筋グリコーゲンが夕食だけで完全回復するとは限らないのです。
回復速度を左右する3つの要素
① 糖質摂取量
最も重要なのは糖質摂取量です。
筋グリコーゲンの材料は糖質なので、材料がなければ回復も進みません。
特に毎日走るランナーでは糖質摂取量が回復を大きく左右します。
② 消費量
当然ですが、たくさん使えば回復にも時間がかかります。
30分ジョグと30km走では回復時間が異なります。
ロング走の翌日に脚が重いのは自然な反応です。
③ 運動強度
同じ時間走ったとしても、強度が高いほど筋グリコーゲン消費量は増えます。
Zone2中心のランニングとインターバル走では必要な回復時間が変わります。
研究① Bergströmら
筋グリコーゲン研究の原点とも言われる有名な研究です。
何をしたのか
研究チームは被験者に運動を行ってもらい、その前後で筋肉の一部を採取する「筋生検」を実施しました。
現在では一般的になった筋グリコーゲン研究ですが、当時は筋肉の中で何が起きているのかを直接調べた非常に画期的な研究でした。
さらに運動後の食事内容を変えながら、筋グリコーゲンがどのように回復するのかも観察しました。
何が分かったのか
運動によって筋グリコーゲンは大きく減少し、糖質を十分に摂取した場合は回復が進むことが確認されました。
一方で糖質摂取量が少ない場合、筋グリコーゲン回復は大きく遅れることも分かりました。
また筋グリコーゲン量が低い状態では持久運動能力も低下しました。
記事との関連
筋グリコーゲンは単なる栄養学の話ではありません。
実際にランニング能力そのものに影響する燃料タンクであり、その回復には糖質補給が重要であることを示した研究です。
研究② Ivyら
いわゆる「ゴールデンタイム」の根拠として知られる研究です。
何をしたのか
研究チームは運動によって筋グリコーゲンを消費させた後、糖質を摂取するタイミングを変えて比較しました。
一方のグループは運動直後に糖質を摂取し、もう一方のグループは数時間後に摂取しました。
その後、筋グリコーゲン再合成速度を測定しました。
何が分かったのか
運動直後に糖質を摂取したグループでは、筋グリコーゲンの再合成速度が高くなりました。
特に運動後数時間は筋肉が糖質を取り込みやすい状態になっていることが示されました。
これが後に「ゴールデンタイム」と呼ばれる考え方の根拠となりました。
記事との関連
ランニング後の食事は単なる空腹対策ではありません。
回復速度そのものを左右する可能性があることを示した研究です。
研究③ Burkeら
現在のスポーツ栄養学の基礎となっているレビュー研究です。
何をしたのか
マラソン、自転車競技、トライアスロンなど持久系競技に関する多数の研究を分析しました。
テーマは主に、糖質摂取量、筋グリコーゲン量、持久力パフォーマンスの関係です。
何が分かったのか
筋グリコーゲン量が十分な状態では高いパフォーマンスを維持しやすく、逆に不足すると持久力が低下する傾向が確認されました。
また回復速度は糖質摂取量に大きく左右されることも示されています。
そのため持久系アスリートでは体重1kgあたり5〜7g以上の糖質摂取が推奨されています。
記事との関連
毎日走るランナーにとって、筋グリコーゲン回復は疲労管理の一部です。
脚の重さや倦怠感の原因はトレーニング量だけでなく、糖質摂取量不足による回復不良が関係している可能性もあります。
ゴールデンタイムは本当に存在するのか
昔からスポーツの世界では「運動後30分以内に糖質を摂取しなければならない」と言われることがありました。
いわゆるゴールデンタイムです。
確かにIvyらの研究では、運動直後の方が筋グリコーゲン再合成速度は高くなりました。
しかし近年では少し考え方が変わってきています。
現在は、
- その後の総糖質摂取量
- 24時間全体での摂取量
- 次のトレーニングまでの時間
の方が重要と考えられています。
例えば明日の夕方まで走らない場合は、数時間以内にしっかり食事を摂れば大きな問題にならないこともあります。
一方で、
- 朝練と夕練の2部練習
- 合宿
- 連日の高負荷トレーニング
では運動直後の補給が重要になります。
つまりゴールデンタイムは存在するが、その重要度は状況によって変わるというのが現在の考え方です。
僕の場合を考えてみる
僕は現在88kg前後で、週4〜6回程度のランニングを行っています。
トレーニング時間は60〜90分。
内容はZone2を中心とした低強度ランニングです。
一方で減量も同時進行しているため、摂取カロリーは比較的控えめです。
最近感じていた、
- 脚の重さ
- 走り出しのだるさ
- 階段のしんどさ
- 疲労感
は、単純な筋疲労だけでなく筋グリコーゲン回復不足も関係しているかもしれません。
特に最近は60分走から90分走へとトレーニング量が増えてきました。
消費量が増えたにもかかわらず、糖質摂取量はそれほど変わっていません。
もし糖質摂取量が不足しているなら、筋グリコーゲンが慢性的に低い状態になっている可能性もあります。
もちろんこれは推測です。
しかしスポーツ栄養学の視点から見ると十分に考えられる仮説と言えるでしょう。
毎日走るランナーはどれくらい糖質を摂るべきか
スポーツ栄養学では、中程度のトレーニングを行う持久系競技者に対して、1日あたり体重1kgあたり5〜7g程度の糖質摂取が推奨されています。
もちろん個人差があります。
しかし毎日走るランナーでは一般成人より明らかに多くの糖質が必要になります。
体重を落とすために糖質を減らすことはできます。
ただし減らしすぎると、トレーニングの質や回復能力を犠牲にする可能性があります。
痩せることと走ることのバランスを考えることが重要です。
まとめ
筋グリコーゲンはランナーにとって重要な燃料タンクです。
そして減った筋グリコーゲンは数時間で完全回復するわけではありません。
一般的には24〜48時間程度かけて回復していきます。
その回復速度を左右するのは、
- 糖質摂取量
- 運動量
- 運動強度
です。
また近年では、運動直後の補給だけでなく1日全体での糖質摂取量が重要と考えられています。
脚の重さや疲労感を感じるとき、原因は単純な疲労だけではないかもしれません。
筋グリコーゲンの回復という視点から食事を見直してみる価値は十分にあるでしょう。
関連記事
参考文献
-
Bergström J, Hermansen L, Hultman E, Saltin B.
Diet, Muscle Glycogen and Physical Performance.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14040865/
-
Ivy JL et al.
Muscle Glycogen Synthesis After Exercise.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3138509/
-
Burke LM et al.
Carbohydrates for Training and Competition.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10054587/







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