ランニングをしていると、「VO2maxが高い人ほど速い」と言われることがあります。
確かにVO2maxは持久力を支える重要な指標です。
しかし、実際にはVO2maxが高いにもかかわらず、それほど速く走れないランナーもいます。
逆に、VO2maxはそれほど高くないのに優れた記録を持つランナーも存在します。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
その答えのひとつがランニングエコノミーです。
今回はVO2maxとの違いを整理しながら、ランニングエコノミーがなぜ重要なのかを解説します。
ランニングエコノミーとは何か
ランニングエコノミーとは、一定の速度で走るために必要なエネルギー量のことです。
簡単に言えば、
「どれだけ少ない酸素消費で走れるか」
を表す指標です。
例えば同じキロ5分で走る場合でも、
- Aさんは酸素を毎分40mL/kg利用する
- Bさんは酸素を毎分45mL/kg利用する
のであれば、Aさんの方が効率よく走れていることになります。
この効率の良さがランニングエコノミーです。
VO2maxが同じでも速さが違う理由
VO2maxは身体が利用できる酸素量の上限です。
一方でランニングエコノミーは、その酸素をどれだけ効率よく使えるかを表します。
たとえるなら、VO2maxはエンジンの大きさです。
ランニングエコノミーは燃費性能です。
同じ排気量の車でも燃費が違うように、同じVO2maxでも走力には差が生まれます。
例えばVO2maxが60mL/kg/minのランナーが2人いたとしても、
- 酸素消費の少ないランナー
- 酸素消費の多いランナー
では、前者の方が速いペースを長く維持できます。
そのため、VO2maxだけを比較しても実際の走力は分からないのです。
トップランナーは必ずしもVO2maxが最高とは限らない
持久系競技の世界では、VO2maxが世界最高だからといって世界最速とは限りません。もちろん、VO2maxが高いと有利ではありますが。
実際にトップランナーの研究では、競技レベルの高い選手ほどランニングエコノミーに優れていることが報告されています。
つまりトップ選手は、同じ速度をより少ないエネルギーで走ることができるのです。
これはフルマラソンやウルトラマラソンになるほど重要になります。
レース時間が長くなるほど、エネルギー効率の差が大きな差として現れるからです。
実際の研究でもランニングエコノミーの差が確認されている
ランニングエコノミーの重要性は実験でも確認されています。
Morganらの研究では、エリートランナーと一般的な競技ランナーを比較したところ、VO2maxに大きな差がない場合でも、エリートランナーの方が少ない酸素消費で同じ速度を維持できることが報告されています。
つまり、同じエンジン性能であっても、燃費性能が高い選手の方が速く走れるということです。
また、長距離走のパフォーマンスを説明する要因としては、VO2max単独よりもランニングエコノミーを組み合わせた方が実際の競技成績との関連が強いことも示されています。
これは、レースでは「どれだけ大きなエンジンを持っているか」だけでなく、「そのエンジンをどれだけ効率よく使えるか」が重要であることを意味しています。
実際にはVO2maxが70mL/kg/min前後の選手同士でも、ランニングエコノミーの違いによって数分単位のマラソンタイム差が生まれることがあります。
そのため、トップランナーの競技力を説明する際には、VO2maxだけでなくランニングエコノミーが必ず評価対象になります。
ランニングエコノミーを左右する要素
ランニングエコノミーはひとつの要素で決まるものではありません。
複数の要素が組み合わさることで決まります。
フォーム
上下動が大きすぎたり、ブレーキ動作が強すぎたりするとエネルギーロスが発生します。
効率的なフォームは無駄なエネルギー消費を減らします。
筋肉や腱の弾性
筋肉やアキレス腱はバネのような働きを持っています。
この反発をうまく利用できるほど、少ないエネルギーで前進できます。
体重
ランニングでは身体を繰り返し持ち上げながら移動します。
そのため体重が重いほど必要なエネルギーも増加します。
ただし極端な減量は筋力や持久力の低下につながるため注意が必要です。
筋持久力
疲労によってフォームが崩れるとランニングエコノミーも低下します。
長時間安定した動きを維持する能力も重要です。
低強度トレーニングとランニングエコノミー
ランニングエコノミーはフォーム練習だけで改善するわけではありません。
実は低強度トレーニングも重要な役割を持っています。
低強度トレーニングによって、
- 毛細血管の発達
- ミトコンドリアの増加
- 脂質代謝能力の向上
- 疲労耐性の向上
が期待できます。
これらは同じペースをより少ない負担で走る能力につながります。
つまり、ランニングエコノミーの改善にも貢献するのです。
派手なインターバル走ほど目立ちませんが、長期的な走力向上の土台になります。
VO2maxとランニングエコノミーはどちらが重要なのか
結論から言えば、どちらも重要です。
VO2maxは高い方が有利です。
しかしVO2maxだけでは競技力は決まりません。
特にフルマラソンやウルトラマラソンでは、ランニングエコノミーの影響が非常に大きくなります。
実際のレースでは、
- VO2max
- 乳酸閾値(LT)
- ランニングエコノミー
の3つが組み合わさって走力が決まると考えられています。
そのため、VO2maxだけを追いかけるのではなく、効率よく走る能力も同時に鍛える必要があります。
まとめ
ランニングエコノミーとは、少ないエネルギーで効率よく走る能力のことです。
VO2maxが身体のエンジンの大きさを表すとすれば、ランニングエコノミーはそのエンジンの燃費性能と言えます。
そのため、VO2maxが同じランナー同士でも、ランニングエコノミーの違いによって実際の走力には大きな差が生まれます。
実際の研究でも、トップランナーは必ずしも最高のVO2maxを持っているわけではなく、優れたランニングエコノミーによって高い競技力を発揮していることが報告されています。
また、競技レベルが上がるほどVO2maxの向上は頭打ちになりやすくなります。
その一方で、ランニングエコノミーには改善の余地が残されていることが少なくありません。
フォームの改善、筋持久力の向上、腱の弾性の活用、そして低強度トレーニングによる有酸素能力の土台作り。
これらはすべてランニングエコノミーの向上につながります。
走力向上を目指すのであれば、VO2maxという数字だけを見るのではなく、そのVO2maxをどれだけ効率よく使えるかという視点も持つことが重要です。
ランニングエコノミーは、長距離走やマラソンにおいて、記録を左右するもうひとつの重要な能力なのです。
参考文献
- Daniels J. Daniels’ Running Formula. Human Kinetics.
- Morgan DW, Martin PE, Krahenbuhl GS. Factors affecting running economy. Sports Medicine. 1989.
- Saunders PU, Pyne DB, Telford RD, Hawley JA. Factors affecting running economy in trained distance runners. Sports Medicine. 2004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15233599/
- Bassett DR Jr, Howley ET. Limiting factors for maximum oxygen uptake and determinants of endurance performance. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10647532/
- Joyner MJ, Coyle EF. Endurance exercise performance: the physiology of champions. Journal of Physiology. 2008. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19019984/
- Foster C, Lucia A. Running economy: the forgotten factor in elite performance. Sports Medicine. 2007.






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